さらに 運動によって肥満が是正され 膝への負荷が減少します

両膝の手術をうけられましたが とても元気に歩いていらっしゃいます

変形性膝関節症が進行し、軟骨がすり減ると、残念ながらそれを元に戻すことはできません。膝に少しでも違和感があれば整形外科を受診することが大事です。その際のチェックポイントは、①立ち上がったり、歩き始めたときに膝がこわばったり、痛みを感じる、②歩くと痛む、特に階段を上り下りするときに強く痛む、③膝の曲げ伸ばしがつらい、といった症状の有無です。「こうした異常に気づいたときには、できるだけ早く受診してください。『膝が痛むのは年のせい』『多少痛むけれど歩けないほどではない』と先延ばしにしていると、関節の変形や変性がどんどん進んでしまいます」(齋藤先生)。
整形外科を受診すると、最初に行われるのが問診です。痛みの感じ方は患者さんにしかわかりませんし、医師にとってはそれが重要な診断の手がかりとなります。ですから問診の際には、症状、日常生活、持病などについて、具体的に、詳しく伝えることが正確な診断につながります(表)。

変形性膝関節症の治療には、薬物療法や運動療法などの「保存療法」と「手術」があります。どちらを選択するかは、進行度や患者の希望にもよりますが、まずは保存療法を行うのが基本です。
薬物療法は痛みを軽減するのが目的です。関節内で炎症が起こると、痛み物質が発生して、滑膜が刺激されてさらに炎症が進み、痛みが悪化するという悪循環に陥ります。そこで、非ステロイド抗炎症薬などの鎮痛薬で、こうした流れを断ち切ります。
しかし、痛みを軽減するのはあくまでも対症療法です。痛みを起こさせないようにするために重要なのが運動療法です。
運動すると、膝関節を支える筋肉が鍛えられ、膝がしっかり安定して、関節への負担が減ります。また、膝を動かすことで、血行が促され、関節液中の痛みを起こす物質が血中に吸収されて減っていきます。さらに、運動によって肥満が是正され、膝への負荷が減少します。
齋藤先生は「動くと膝が痛む患者さんは、できるだけ運動したくないというのが本音かもしれません。しかし、筋肉は動かさないでいると、どんどんやせ衰えて萎縮していきます。また、運動不足の状態が長引くと、腰や股関節など他の部位にも悪影響を及ぼします。このように膝をはじめとする運動器の障害が進展した状態は「ロコモ」(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)と呼ばれ、介護が必要になりやすい状態です。これを防ぐために運動療法は欠かせません。適切な運動にはすぐれた治療効果があります」と説明します。

運動としては、太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛える「脚上げ体操」や「ハーフスクワット」などの筋力トレーニング、関節の柔軟性を回復させるストレッチなどが有用です。たとえば、脚上げ体操は、イスに浅く腰かけて片方の足を伸ばし、ゆっくりと10センチメートルほ
ど上げ5秒間ほど静止してゆっくり下ろします。これを1回とし、20〜30回を1セットに、1日3セットぐらいを目安に行います。
また、屋外で行う有酸素運動にはウォーキングや自転車、水泳などがあります。なかでもウォーキングは気軽に行えるので、お勧めです。平坦な道を歩くこと自体は膝にかかる負担は比較的軽微ですが、階段や坂道の昇降は負担が大きくなりますから、無理は禁物です。ウォーキングの時間は、最初は15分くらいから開始し、少しずつ時間を延ばしていくのがいいでしょう。変形性膝関節症になると、動くと痛いので家に閉じこもりがちになりますが、ウォーキングはそれを解消する上でも有効です。
齋藤先生は「筋力トレーニングやウォーキングなどの運動療法の効果は1週間や10日で現れるものではありません。長く続けることで初めて実感できます。まずは1か月を目標に頑張ってみることが大切」と話しています。

膝の関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(お皿)が組み合わさってできています。大腿骨と脛骨の端は、骨同士がぶつからないように「関節軟骨」で覆われており、骨の間には軟骨の一種である「半月板」というクッション代わりの組織もあります。また、関節の中は「関節液」で満たされていて、関節軟骨に酸素や栄養を補給しています。
私たちは日常生活の中で、歩く、立つ、座るなどの動作をなにげなく行っていますが、それがスムーズにできるのは、膝の関節が正常に機能しているからです。しかし、重い体重を支えながらこうした動きを繰り返すのは、膝関節にとっては大きな負担となります。
「それが長年にわたって続くと、関節軟骨や半月板が次第にすり減って変性が進みます。その過程で、すり減った軟骨のかけらが関節液に混じり、関節包の内側にある滑膜を刺激します。すると、滑膜に炎症が起こり、痛みを生じます。これが変形性膝関節症です(図)」(齋藤先生)。
疫学調査によると、現在、変形性膝関節症で治療を受けている人は全国で約800万人、自覚症状の有無にかかわらず、X線検査の所見で変形性膝関節症と診断される人は2400万人にものぼるといいます。

日本人は、とにかく我慢しがちです。「少しぐらいの傷みなら…」と、接骨院やサプリメントに頼って、病院にはなかなか行きません。とことん我慢してから病院に来られるので、そのときには即「手術」ということもあります。早めに受診することで、治療の選択肢は広がります。「膝が痛いな」と思ったら、まず整形外科に、できれば膝の専門医を受診しましょう。
症状が軽いうちは、手術をせずに進行を遅らせたり、症状を緩和させたりする保存療法が可能です。方法としては、痛み止めなどの内服薬、ヒアルロン酸の関節内注射など、薬による治療や、足底板(外側が高くなっているくつの中敷)を使いO脚を補正することなどがあります。
運動療法もあります。膝が悪くなる理由の一つとして、加齢による筋肉量の低下があげられます。若いうちは筋肉で膝を支えることができますが、年をとると筋肉が落ちることで直接骨が体重を支えることになり、軟骨に負担がかかります。普段、膝にどれくらいの加重がかかっているか知っていますか? 実は、階段の上り下りや走るときには、体重の4倍から6倍の重さが膝にかかっています。膝にはそれだけの負担がかかるわけですから、高齢になればなるほどホームエクササイズ等で筋肉を鍛えることはとても大事になります。病院に来ていただければ、その方法なども説明してもらえます。
これらの方法で、多くの人の症状は緩和されます。しかし、改善されない場合は、膝付近の骨を矯正してO脚をなおす「骨切り術」、さらに症状が重い場合は「人工膝関節置換術」を行います。

「O脚がひどい」「軟骨がほとんどない」など、症状が重い場合は「人工膝関節置換術」を行います。これは、変形性膝関節症などによって変形した骨の損傷面を取り除き、代わりに人工関節に置き換えるというものです。欧米では、膝に痛みを感じる方の多くがこの手術を受けており、大変一般的なものになっています。
現在日本でも7万人を超える人が人工膝関節置換術を受けていますが、65歳以上の人の割合が高いです。人工関節の耐久年数は一般的に15~20年程度。近年は材質も性能もどんどん向上しており、30年くらいまで延びるのではないかともいわれています。ただ、あまり早く人工関節にすると、入れ替え手術をする可能性が出てきます。入れ替え手術は一回目の手術に比べ難しくなります。65歳以上であれば、入れ替え手術の可能性も高くないということがその理由です。
これまで手術をした方の年齢の平均は72~73歳、一番若い方で57歳、高齢の方で95歳でした。高齢だと手術に不安を感じる方もいらっしゃいます。しかし、手術をすることでご本人の生活の質(QOL:クオリティ オブ ライフ)を高めることができます。95歳の方も「自分の足で元気に歩きたい」という前向きな気持ちを持って、手術をうけられました。両膝の手術をうけられましたが、とても元気に歩いていらっしゃいます。 なお、人工膝関節置換術には公的医療保険が適用されますが、さらに高額療養費制度の対象にもなっています。

変形性膝関節症は単一ではなく、多くの要因が複雑に絡み合って発症します。なかでも最も大きな要因は加齢です。膝にかかる負担は長年にわたり少しずつ積み重なりますから、年をとるほど関節軟骨がすり減ったり、半月板が損傷したりしやすくなります。
女性の場合、男性に比べて膝関節を支える筋力が弱く、関節が小さいため、膝にかかる負担が大きくなります。患者数で比べると、女性は男性の2倍といわれます。またO脚の人も要注意です。O脚は膝が外側に反った状態になっているため、関節の内側に偏って体重がかかり、その部分の軟骨がすり減りやすくなります。
さらに、肥満、仕事での膝の酷使、激しいスポーツなども膝に過大な負担をかけます。齋藤先生は「変形性膝関節症の原因は様々ですが、中高年の女性で肥満、O脚が重なったら特に注意が必要です」とアドバイスします。

膝関節にはさまざまな筋肉・腱・靭帯が付いており、それらによって安定性を保ったまま曲げ伸ばしをすることができます。特に太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)は膝関節の曲げ伸ばしをする際、体重を支える重要な役割を担っています。膝を曲げようとする際には、太ももの後ろにあるハムストリングス(膝屈曲筋)と呼ばれる筋肉が収縮し、逆に大腿四頭筋が緩んで、大腿骨が脛骨の上を後方にすべりながら転がること で膝が曲がります。

スポーツ動作全般で発生しますが、特にジャンプ動作での膝屈伸時や、ダッシュやキック動作で起こりやすく、膝蓋骨下方にある脛骨結節部に限局した疼痛と強い圧痛が主症状です。局所の熱感や腫張、骨性の隆起(写真1)が認められます。時に両側に発生します。ジャンプ時の疼痛が原因でジャンプ力が低下したり、ダッシュ時の疼痛でタイムが低下したりするなど、スポーツ能力の低下に直結しますが、急性外傷(突発的ケガ)ではないためにスポーツ休止の判断が難しく、現場では疼痛を抱えながらもスポーツ活動を継続している例を散見します。

膝関節は、3つの骨からできています。脛骨(すねの骨)の上に大腿骨(太ももの骨)が乗り、更に大腿骨の前面には膝蓋骨(膝のお皿)があります。膝関節はいわゆる蝶番(ちょうつがい)関節で、大腿骨と脛骨の間で曲げ伸ばしが可能です。膝蓋骨は、太もも前面の筋肉と脛骨とをつなぐ腱の間にあり、膝を伸ばす際に筋肉の収縮をうまく脛骨に伝えるための滑車の役割を果たしています。